転職する前、つらいことを想定していた。 新しい仕事を覚えること。年下の社員に教わること。 企画職として通用するかどうかの不安。 そういうことを、覚悟していた。
でも実際に転職してみて、一番つらかったのはそのどれでもなかった。
長年かけて築いてきた社内人脈が、一瞬でゼロになること。 それだけは、想定していなかった。
「人脈がゼロになる」とは、どういうことか
前職では、10年以上かけて社内に人脈を作ってきた。 設計部門の誰に聞けば技術的な問題が解決するか。 評価部門の誰が一番現場に詳しいか。 企画部門の誰と話すと、意思決定が早く進むか。 そういった「誰に何を聞けばいいか」の地図が、頭の中に出来上がっていた。
転職した初日、その地図が丸ごと消えた。
前職(10年以上)
困ったら誰に聞けばいいか、すぐわかる。
「あの人に頼めば動く」という信頼関係がある。
自分の実績と評判が、社内に蓄積されている。
転職初日
困っても、誰に聞けばいいかわからない。
自分のことを誰も知らない。信頼残高がゼロだ。
実績も評判も、ここでは何の意味もない。
これは頭でわかっていたことだ。 でも実際に体験するまで、その重さがわかっていなかった。
人脈とは、単なる「知り合いの数」ではない。 仕事を動かすための「インフラ」だったのだと、失ってから気づいた。
最初の1ヶ月で起きたこと
入社1週目、会議室への行き方がわからなかった。 社内システムの使い方がわからなかった。 誰に何を確認すれば良いかがわからなかった。
それらはすべて、時間が解決する問題だとわかっていた。 でも、もう一つの問題が重かった。
企画職として動き始めようとした時、 「この方向性で進めていいか」を相談できる相手がいなかった。 前職なら、廊下ですれ違う先輩に声をかければ済んだ。 でも転職先では、誰が何をどこまで知っているかも、まだわからない。
入社2週目のある昼休み
社員食堂に一人で座っていた。周りのテーブルでは、同僚たちが話しながら食べている。内容は聞こえないが、笑い声が聞こえる。
自分だけが、その輪の外にいる感覚があった。
40代で、一人でランチを食べている。前職では考えられなかった光景だ。これが転職というものか、と思った。惨めとは違う。ただ、静かに孤独だった。
年下の社員に教わることは、覚悟していた通り苦ではなかった。 むしろ素直に吸収できた。 でも孤独感は、想定していなかった。 動かないことにもコストがかかると思って転職したのに、 転職後にこんな感覚が来るとは思っていなかった。
人脈をゼロから作り直した、3つのことをやった
孤独を感じながらも、じっとしていても何も変わらないと思い直した。 人脈の構築は、前職で経験してきた。 やり方はわかっている。ゼロから始めるだけだ。 その気持ちの切り替えが、最初の一歩だった。
まず「聞く人」になった
自分の意見や実績を売り込む前に、相手のことを知ることを優先した。「前職ではこうでした」という言葉を意識的に封印した。新しい職場には新しい文化があり、それを理解する前に前職の話をすると「前の会社のやり方を押しつける人」という印象を与えてしまう。まず聞く。それだけを徹底した。
小さな仕事で、小さな信頼を積んだ
大きな企画を通す前に、小さな依頼に確実に応えることを意識した。「この資料、確認してもらえますか」という依頼に丁寧に答える。約束した期限を守る。そういった小さなことの積み重ねが、「この人は信頼できる」という評判を少しずつ作っていった。人脈とは関係の数ではなく、信頼の総量だと気づいた。
社外にも目を向けた
社内の人脈がゼロになった一方で、社外の人間とつながる機会は前職より増えた。企画職という立場上、顧客や取引先と接する場面が多かった。そこで作った関係が、社内での孤独感を和らげてくれた。人脈は社内だけで完結しなくていいと気づいたのは、転職後の意外な発見だった。
孤独感が薄れるまで、どのくらいかかったか
正直に書く。 社内で「この人に聞けば大丈夫」という関係が複数できるまでに、 約6ヶ月かかった。
最初の2ヶ月は、孤独感が続いた。 3〜4ヶ月で、話しかけやすい人が数人できた。 5〜6ヶ月で、「相談相手」と呼べる人が出てきた。
転職から半年後に書いたメモ
ようやく「誰に何を聞けばいいか」の地図が、少しずつ見えてきた。
前職の地図を作るのに10年かかった。今の地図は6ヶ月でここまで来た。経験があるから、効率が上がったのかもしれない。
ただ、この6ヶ月の孤独は、転職前に誰も教えてくれなかった。知っておけば、もう少し楽だったかもしれない。
今この記事を書いているのは、その「知っておけば楽だった」という経験を 伝えたいからだ。
人脈はゼロになる。でも、作り直す力は残る
転職前、「今の人脈を失うのが怖い」という気持ちがあった。 動かないことを選んでいた3年間、その恐怖が足を止めていた理由の一つだった。
転職後の現実は、確かに人脈がゼロになった。 でも同時に気づいたのは、「人脈を作る力」はゼロにならないということだ。 10年で培った「人との関わり方」「信頼の積み方」「相手の話の聞き方」—— それらは転職先でも使えた。
人脈は「資産」ではなく「スキル」だ。
資産は会社を移れば消える。でもスキルは、どこへ行っても持ち運べる。 40代までに培った「人脈を作るスキル」は、転職先でも確実に活きた。
最初の6ヶ月の孤独は、想定外だった。 でも乗り越えられなかったわけでもなかった。 それだけは、転職を迷っているあなたに伝えておきたい。
転職後の孤独感を含めたリアルな話を、エージェントに聞いてみることも一つの方法だ。 リクルートエージェントは転職後のフォローも対応しており、 現実的な準備の相談ができる。


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