転職を迷っている時、人はリスクを数える。
年収が下がるかもしれない。新しい職場に馴染めないかもしれない。 40代という年齢が、転職市場でどう評価されるかわからない。 家族に迷惑をかけるかもしれない。失敗したら取り返しがつかないかもしれない。
そのリスクを並べた結果、「今は動かない方がいい」という結論を出す。 私も、そうやって3年間を過ごした。
でも今になって思うのは、あの3年間にも、確実にコストがかかっていたということだ。 動かないことを選んだのに、何かを失い続けていた。 そのことに、当時の私は気づいていなかった。
3年間で、じわじわと失っていったもの
「現状維持」という言葉には、安定のイメージがある。 変化がない代わりに、今あるものが守られる——そういう印象だ。
でも実際には、現状維持という選択をしている間も、時間は動いている。 そして時間が動く中で、気づかないうちに失われていくものがある。
最初は「いつかは変わる」と思いながら仕事をしていた。その「いつか」を信じる力が、1年目の終わりには少し薄れていた。気づかないほど小さな変化だったが、確かに何かが減った。
面白くない仕事をこなし続けると、それが「自分の仕事」になっていく。やりたかったことを諦めた記憶が薄れ、今の状態が「普通」に見えてくる。これが一番怖い変化だったと、今は思う。
3年目に入る頃、私は転職したいという気持ちをまだ持っていた。でも以前より、その気持ちの声が小さくなっていた。忙しさと疲労が積み重なり、「考えること」自体が億劫になっていた。
数字で見えるコストではない。 でも確実に、何かが減っていた。 そしてその「何か」は、お金で買い戻せるものではなかった。
「現状維持」は、維持ではなかった
転職を迷っている3年間、私は何度も「現状維持」を選んだ。 でも今振り返ると、あれは「維持」ではなかったと思っている。
会社の仕組みは変わらない。組織の文化は変わらない。 上司も、部下との関係も、仕事の種類も、変わらない。 でも私自身は、毎日少しずつ変化していた。 ただし、良い方向にではなく。
3年目のある夜、メモに書いた言葉
今日も同じ一日だった。昨日と何も変わらない。明日も変わらないだろう。
「変わらない」ことを選んでいるのに、なぜ消耗している気がするのか。
もしかして、止まっているのは周りだけで、自分だけが摩耗しているのか。
止まっているものに、動いているものが当たり続ければ、削れるのは動いている側だ。 変わらない環境の中で、私だけが少しずつ削られていた。 それが「現状維持」の正体だったと、今は思っている。
お金は取り戻せる。時間は取り戻せない
転職を迷う時、多くの人が年収のことを考える。 私もそうだった。転職で年収が下がるリスクは、 家族を養う立場にとって無視できない問題だ。
でも年収は、努力次第で取り戻せる。 実際に私は、転職後4年で転職前を大きく上回る年収になった。 お金のコストは、時間をかければ回収できる。
問題は、時間だ。
転職を迷って過ごした3年間は、もう戻らない。40歳から43歳という時間は、取り返しがつかない。
転職活動を始めた時、私は40歳だった。 社会人生活の折り返し地点を、すでに過ぎていた。 もし動き出すのがあと3年遅れていたら——46歳での転職活動になっていた。 市場の評価が変わり、体力も落ち、家族の状況もさらに変わっていただろう。
動かないことのコストは、じわじわとかかる。 請求書が届くわけではない。通帳の残高が減るわけでもない。 でも確実に、取り戻せないものが減り続けている。
「今は動かない」と決める前に、一つだけ確かめてほしいこと
転職しないという選択が、間違いだとは思っていない。 今の仕事に意味を感じていて、成長の実感があり、 この先の展望が見えているなら——それは正しい選択だ。 動かないことにコストがかかるのは、そうではない場合の話だ。
だから一つだけ確かめてほしい。
1年後の自分が、今日と同じ場所に立っていることを想像した時、それは「安心」ですか。それとも「絶望」ですか。
「安心」なら、今は動かなくていい。 でも少し黙ってしまったなら、その沈黙の中に答えがある。
私が3年間動けなかった理由は、上司の言葉で吹っ切れるまで、 その問いを自分に向けることを避けていたからだと思っている。 正面から向き合った時、答えはすでに出ていた。
動くことへの恐怖と、動かないことへのコスト。 どちらが自分にとって大きいかを、一度だけ正直に比べてみてほしい。
それでも、動き出すのは怖い。だから準備がいる
「動くべきだ」とわかっていても、恐怖は消えない。 私もそうだった。吹っ切れた後も、怖かった。
でも、怖いまま動くことはできる。 恐怖がなくなるのを待っていたら、永遠に動けない。 必要なのは「恐怖を消すこと」ではなく、「恐怖を抱えたまま動ける準備をすること」だった。
私が最初にやったのは、自分にできることを100個書き出すことだった。
漠然とした恐怖は、「自分には何もできないかもしれない」という不安から来ていた。その不安に、具体的な言葉で反論できるようになった時、初めて動き出せた。
準備は、恐怖を消さない。でも準備は、恐怖に勝てる根拠をくれる。
時間だけは、確実に、取り戻せない速さで過ぎていく。 それだけは、忘れないでほしい。
まず話を聞いてもらうだけでいい
動き出す最初の一歩は、誰かに話すことだと思っている。 私が使ったリクルートエージェントは、登録して話を聞いてもらうだけでも、 自分の現在地が少し見えてくる。 決断は、その後でいい。


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