- 子どもに「大丈夫?」と言われた、あの夜の全容——何が起きて、何を感じたか
- 転職をやめようと思った瞬間と、踏みとどまった本当の理由
- 転職活動が家族に与える影響——子どもは大人が思うより、ずっとよく見ている
- 「家族のために転職する」「家族のために転職しない」どちらが本当の答えか
- 転職活動中に子どもの不安を和らげるために実際にやったこと
転職活動を始めてから、数ヶ月が経った頃のことだ。
仕事を終えて帰宅し、夕食を食べて、子どもたちが寝る準備を始める時間。 私はリビングのソファに座って、ぼうっとしていた。 正確には、「休んでいた」のではなく、「動けなかった」のだと思う。
その時期の私は、転職活動の疲弊と本業の忙しさが重なって、精神的に相当きつい状態だった。 面接が続いていて、うまくいかない日が重なっていた。 表情が暗くなっていたのは、自分でもわかっていた。 でも家族の前でそれを出さないようにしようと、そう思っていた。
子どもは、そんな私を見ていた。
SCENE / あの夜のリビング
夜8時頃。小学3年生の息子がリビングでゲームをしていた。
私はソファに座ったまま、テレビもつけずに座っていた。何をするでもなく、ただそこにいた。
しばらくして、ゲームのコントローラーを持ったまま、息子が私のそばに来た。
真顔で、こちらをじっと見て——
「大丈夫?」
それだけ言った。
たった3文字だった。 でもその3文字が、私の胸に刺さった。
「大丈夫だよ」と答えた。できるだけ普通の声で、そう答えた。 息子はしばらく私の顔を見てから、「わかった」とだけ言って、またゲームに戻っていった。 その後ろ姿を見ながら、私は表情が崩れそうになるのを、必死にこらえた。
パーソル総合研究所の調査によると、在職中に転職活動をした人の約63%が「家族に精神的な負担をかけた」と感じていた。また「転職活動中に配偶者以外の家族(子ども)が変化に気づいていた」と回答した人は全体の約4割にのぼる。
子どもは親の表情・言動・雰囲気の変化を、言葉にならない形で察知している。「心配させていない」は、親側の思い込みである場合が多い。
子どもは、大人が思うよりずっとよく見ている
転職活動中、私は「家族には心配させていない」と思っていた。 朝は普通に出勤し、夕食は家族と食べ、会話も普通にしていた。 転職活動のことを子どもたちに話したことはなかった。 だから、バレていないと思っていた。
息子の「大丈夫?」は、その思い込みを一瞬で崩した。
息子は何も詳細を知らない。転職活動をしていることも、面接が続いていることも、うまくいっていないことも。 でも「お父さんの様子がいつもと違う」ことは、ちゃんとわかっていた。
転職活動前の私は、帰宅後も何かと動いていた。
子どもの宿題を見たり、翌日の準備をしたり。転職活動期間中は、帰宅後にソファに座り込む時間が増えていた。息子はそれを毎日見ていた。
子どもの話に相槌を打っていても、笑い返す余裕がなくなっていた。
「今日学校でこんなことがあった」という話に、以前なら笑って反応していた。それが、ぼんやりとした返事になっていた。
子どもが寝た後に、エージェントへのメール返信や応募書類の修正をしていた。
朝起きると父親がまだ作業をしていた日もあった。子どもはそれも見ていた。
言葉のやり取りはある。
でも、頭の中が別のところにある状態での会話。子どもには、その「上の空感」が伝わっていたと思う。
後から考えると、息子はずっと私のことを見ていたのだと思う。 そして「聞いてもいいのか」「聞いたらダメなのか」を、子どもなりに迷いながら、 あの夜に「大丈夫?」という言葉を選んだのだろう。
「心配させていない」は親側の思い込みだった。息子は何も知らなくても、全部感じ取っていた。
眠れなかった夜に考えたこと
息子が「わかった」と言ってゲームに戻った後、私はその夜、眠れなかった。
「自分は何をやっているんだろう」という言葉が、ぐるぐると頭の中を回り続けた。
INNER VOICE / あの夜、頭の中にあったこと
転職活動は、自分のためにやっている。それは事実だ。
でも、その「自分のため」が、今この瞬間に息子を不安にさせている。
息子はまだ小学3年生だ。「お父さんが転職活動中」なんて言葉も概念も持っていない。ただ「お父さんの様子がいつもと違う」という事実だけを受け取って、「大丈夫?」と聞いてきた。
転職活動をやめた方がいいんじゃないか。このままの会社にいた方が、家族にとっては良いんじゃないか。
「家族のために転職する」と言っていたのに、今の自分は「家族を犠牲にして転職しようとしている」のではないか——。
その夜、「転職活動をやめよう」と思った。本気で、そう思った。
子どもが「大丈夫?」と聞いてくるような状態で、続けることに意味があるのか。 今の会社は辛い。でも子どもを不安にさせるほどのことなのか。 「現状維持」の方が、家族全員にとって正解なのではないか。
そう思いながら、明かりを消した。目をつぶった。眠れなかった。
それでも転職を続けた本当の理由
翌朝、目が覚めた時、気持ちは変わっていた。
「やめよう」は消えていた。代わりに残っていたのは、「続ける」という静かな確信だった。
なぜか。 夜中に考え続けた末に、一つの問いにたどり着いたからだ。
「転職活動をやめた後の自分」を、正直に想像してみた。
今の会社に戻る。月100時間の残業が続く。日曜の夜になると憂鬱になる。仕事が面白くない日々が続く。5年後、10年後も、同じ場所にいる。
その自分は、息子に「大丈夫?」と聞かせない父親になれるか。
答えは、ノーだった。
転職活動をやめれば、今月の息子の「大丈夫?」はなくなるかもしれない。でも来年も、再来年も、どんどん疲弊していく父親の姿を見せ続けることになる。それで良いのか。
子どもが心配するのは、今だけじゃない。この先何年も、疲れ果てた父親を見続けることの方が、子どもにとってずっと重いはずだ。
「家族のために転職しない」のではなく、「家族のために転職を続ける」——その結論に至った。
ただし、一つだけ変えようと思ったことがある。 それは、「転職活動の不安を家族に見せないようにする」という姿勢を、少し手放すことだった。
隠そうとするから、ぼんやりとした「いつもと違う雰囲気」だけが伝わる。 それが、子どもの不安を生む。 完全に話す必要はないが、「お父さんは今、新しいことに挑戦しようとしている」という事実だけは、伝えようと思った。
「家族に心配させないために活動をやめる」は、短期的な解決に見えて、長期的には何も解決しない。自分が元気でいることが、家族にとっての安心につながる。それが、あの夜に出した結論だった。
リクルートワークス研究所の調査では、転職後に「家族関係が改善した」と感じた人は全体の約58%。その理由として最も多かったのは「残業が減り、家族と過ごす時間が増えた」(42%)と「精神的な余裕が生まれた」(38%)だった。
転職活動中の一時的な負担は存在するが、転職後の環境改善が家族関係の向上につながるケースの方が、統計的には多い。
転職活動中、子どもの不安を和らげるためにやったこと
あの夜の翌日から、少しだけ行動を変えた。 劇的な変化ではない。でも、意識的に変えたことがいくつかある。
転職活動の詳細は話さなかった。
でも「お父さんは今、もっと楽しい仕事ができるように頑張っているんだ」とだけ伝えた。
息子はその意味を完全には理解しなかったと思う。でも「お父さんは何かしっかりした理由があってそういう状態になっている」ということだけは伝わった。それだけで、息子の表情が少し変わった気がした。
転職活動の調べ物や書類作業は、子どもが起きている時間にはやらないと決めた。
特に週末の土曜の午前中は、必ず息子と何かをする時間にした。公園に行くだけでも良い。ゲームを一緒にするだけでも良い。「お父さんはいつもと違う」という空気を少しでも薄めるためだった。
以前は「大丈夫だよ」とは言っていたが、笑顔がなかった。
言葉と表情が一致していなかった。それが子どもには余計に不安を与えていたのだと気づいた。転職活動の結果がどうであれ、家族の前では笑顔でいる、それだけを意識した。簡単ではなかったが、意識するだけで表情は変わった。
疲れた状態でリビングに座り込む時間を、子どもが見える場所でやらないようにした。
疲れた時は先に自分の部屋に入り、少し休んでから子どもたちのいるリビングへ戻るようにした。たったそれだけのことで、子どもが見る「お父さんの状態」が変わった。
これらは転職活動そのものへの解決策ではない。 でも「家族に余計な不安を積み増さない」という視点で、できることをやった。
息子がその後また「大丈夫?」と聞いてくることはなかった。 変わったのは私の行動だったのか、子どもの認識だったのか、今でも正確にはわからない。
転職後、あの夜を振り返って思うこと
転職が決まった日、妻はごちそうを作って待っていてくれた。 息子も下の子も笑っていた。 テーブルを囲んで食べた夕食は、転職活動を通じて感じてきた不安が全部溶けていくような時間だった。
転職後、残業は月100時間から20時間程度に減った。 週末は子どもたちとちゃんと過ごせるようになった。 日曜の夜に憂鬱になることも、なくなった。
転職活動中の週末
書類作業、エージェントとのやり取り、面接対策。子どもと過ごす時間はあっても「上の空」の状態が多かった。
転職後の週末
子どもの試合の応援に行ける。公園で遊べる。頭の中が仕事で占領されていない週末が戻ってきた。
帰宅後の状態
疲弊してソファに倒れ込む日が続いた。表情も暗く、子どもが「大丈夫?」と聞くほどの状態。
帰宅後の状態
疲れはあっても、精神的な疲弊が違う。子どもの話を笑って聞けるようになった。
今振り返ると、あの夜の息子の「大丈夫?」は、私への最大の贈り物だったとも思う。
あの言葉がなければ、私は「家族に心配させていない」という思い込みのまま、ただ消耗し続けていたかもしれない。 息子の一言が、私に「なぜ転職するのか」を本当の意味で問い直させてくれた。
転職活動を続けた本当の理由は、「自分のため」だけではなかった。元気な父親でいることが、家族のためになる——それがあの夜に出た答えだった。
転職活動中に家族に心配をかけることは避けられない部分もある。 でも「活動をやめれば家族は安心する」は、必ずしも正しくない。 長期的に見た時に、どちらの選択が家族全体の幸福につながるかを、冷静に考えることが重要だ。
あの夜の息子は、今もゲームが好きなままだ。 父親が転職活動をしていたことを、今でも詳しくは知らない。 それでいいと思っている。
よくある質問(FAQ)
転職活動が長引くほど、家族への負担も積み重なる。早く・確実に進めるためには、一人で抱え込まずにプロに相談することが近道だ。リクルートエージェントは、在職中の40代転職に実績がある。まずは話を聞いてもらうことから始めてほしい。
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