「エンジニアから企画職へ」と言うと、多くの人は「未経験なのに難しいですね」と言う。 でも実際に転職してみると、その見方は逆だったと気づいた。
企画職に長くいる人間より、エンジニアとして設計・実装・評価を経験した人間の方が、 企画の仕事で貢献できることがある。 未経験という弱点だと思っていたものが、差別化の武器だった。
なぜそう言えるのか。この記事で説明する。
企画職にずっといる人が、なぜ「夢物語」を作るのか
設計者として10年近く企画書を受け取り続けた中で、 ずっと感じていたことがある。
企画書に書かれている機能が、技術的に実現困難だったり、 製造コストが合わなかったり、後工程で大幅な手戻りが発生したりする。 「世界初」という言葉が躍っているのに、お客様が本当にそれを必要としているのかの 検証が薄いまま通ってしまう企画も多かった。
これは悪意があるわけではない。構造的な問題だ。
企画職は「上流」にいる。市場のトレンドを見て、競合を分析して、新しい価値を定義する。その仕事は重要だし、難しい。
でも「下流」——設計・実装・評価——で何が起きているかは、日常的には見えにくい。どのくらいの工数がかかるか、どこに技術的な制約があるか、どの仕様変更が後工程に波紋を広げるか。それを知る機会が少ない。
だから、意図せず「夢物語」になる。
企画職にずっといる人が夢物語を作るのは、能力の問題ではない。 後工程を見る機会がなかっただけだ。 そしてその「機会がなかったこと」が、エンジニアにとっての差別化になる。
エンジニア経験が、企画職で武器になる3つの理由
① 「実現可能性」を自分で判断できる
企画を立てる時、「これは技術的に作れるか」「どのくらいの工数がかかるか」を自分で判断できる。企画職にずっといた人は、この判断を設計者に委ねるしかない。自分でできると、企画のスピードと精度が上がる。また「この機能は削っても価値が変わらない」という判断も自分でできるため、コストと価値のバランスを取った企画が立てられる。
② 設計者と「共通言語」で話せる
企画が設計に下りた後、最も多くの摩擦が起きるのは「認識のズレ」だ。企画側が意図したことと、設計側が理解したことが違う。その摩擦のコストは、プロジェクト全体に響く。エンジニアとして設計の言語を知っている人間が企画にいると、この摩擦が減る。私が面接で「企画と設計の橋渡し役になれる」と話した時、面接官の目が変わった。
③ 「複数の規格の組み合わせ」という発想ができる
設計者は複数のプロジェクトや規格を横断して見ることが多い。そこから「この機能とあの機能を組み合わせると、新しい価値が生まれる」という発想が生まれやすい。企画職にずっといる人は、一つの企画を深掘りする力はあるが、横断的な組み合わせの発想は出てきにくい。この違いは、転職後に実際の企画で何度も効いた。
面接で「なぜ未経験で企画職を志望するのか」と聞かれた時
この問いは、ほぼ全ての面接で来た。 最初の頃は、うまく答えられなかった。 「企画に興味があったから」「設計の立場から企画への問題意識があったから」—— そういう答えを返していた。
でもそれは「やりたい理由」であって、「なぜ自分なのか」の答えではなかった。 落ちた面接の多くで、この問いへの答えが弱かった。
「企画職にずっといる人は、後工程を知らない。だから夢物語になる。私は後工程を知っている。その視点が、企画の精度を上げる。」
この言葉が出てきてから、面接の空気が変わった。 「未経験なのに」という問いへの答えが、 「だからこそ」という差別化の主張に変わった瞬間だった。
軸を見つける作業の中で、この言葉は生まれた。 「やりたい」に根拠を持たせた時、初めて面接で使える言葉になった。
企画職出身者と、エンジニア出身者の違い
転職後、企画職にずっといた同僚たちと一緒に仕事をする中で、 お互いの強みと弱みが見えてきた。 どちらが優れているという話ではない。 違いを知った上で、自分の強みを活かすことが重要だ。
強み:市場トレンドの読み方が体系的。競合分析の手法が洗練されている。「何が売れるか」の嗅覚が鋭い。プレゼンテーションの構成が上手い。
弱み:「作れるかどうか」の判断を設計者に依存しやすい。後工程の視点が薄くなりがち。
強み:実現可能性を自分で判断できる。設計者と共通言語で話せる。技術的な制約の中で最大の価値を引き出す発想ができる。
弱み:市場分析の手法に不慣れ。「どう売るか」の視点が後から来る。プレゼンの構成が技術寄りになりがち。
この違いを理解した上で、自分の弱みを補う努力をした。 市場分析の手法は、転職後に学んだ。 プレゼンの構成は、企画職出身の同僚から盗んだ。 でも強みは、最初から持っていた。 弱みは後から補える。強みは最初から使える。
「未経験」は、言い方を変えると「異なる経験を持つ人材」だ
転職活動を始めた頃、「未経験職種への転職」という言葉を使うたびに、 自分で自分を弱く見せていた気がする。 「未経験なのに挑戦する人」ではなく、 「企画職とは異なる経験を持つ人材」として自分を定義し直した時、 面接での話し方が根本から変わった。
エンジニアが企画職を目指すことは、無謀ではない。
後工程を知ること。実現可能性を自分で判断できること。設計者と共通言語で話せること。 これらは、企画職にずっといた人間が持ちにくい強みだ。
それを「弱みを抱えた未経験者」ではなく「異なる視点を持つ人材」として 言語化できた時、はじめて企画職への転職が現実になった。
あなたが今持っているエンジニアとしての経験は、 企画職の文脈で読み直せば、強みになる。 軸の見つけ方でやった「やりたいとやれるの重なりを探す」作業は、 まさにその読み直しの作業だ。
まだやっていないなら、ぜひやってみてほしい。
エンジニアから企画職への転換は、担当者の理解が重要になる。 私が使ったリクルートエージェントは、技術系の経歴を持つ人材の 職種転換に対しても、丁寧に対応してくれた。


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